みちばたみちすがら
2008年9月15日掲載
今年のイヌノフグリ(2008年前半期 福岡・ちょっとだけ佐賀)
3月上旬 直方市
数年前から、イヌノフグリという小さな草を見ています。
イヌノフグリは環境省から絶滅危惧種(絶滅するおそれのある生き物)に指定されている植物ですが
(注1)、
山の中や森の中というより、まちの中で見かけることが多いです。
昨年
イヌノフグリのページをはじめて作りましたが、
今年も、福岡各地(ちょっとだけ佐賀)で見たイヌノフグリについて、写真をまじえてレポートします。
[大濠公園のイヌノフグリ]
今年は年頭からイヌノフグリでした。
大濠公園(福岡市中央区)の植え込みにイヌノフグリが以前から生えていて(いつごろから生えているのかはまったくわかりません)見ていたのですが、
今年初めに大濠公園を通ったときに、その生えている植え込みが工事で撤去されかかっていました。
あわてて、県営公園なので県に連絡すると、公園事務所と連絡をとってほしいとのことで、
そのあと公園事務所の方々と話をして、残っていた一部のイヌノフグリが別の場所に移されました。
1月中旬
4月下旬
その後の観察で(公園中歩き回りました)、公園内の他のいろいろな場所にイヌノフグリがまだ数多く生えていることがわかりました。
生えている様子です。植え込みの中が多いですが、ふつうの地面にも生えていました。
↓
3月下旬
2月上旬 芝生状の場所 ホトケノザやオオイヌノフグリと背丈を競っています
5月下旬 草刈りの後も小さく成長して花が咲きました
花は1月はじめから6月まで咲いていました。(それ以前は見に行っていないためわかりません)
最も花が多かったのは3月から4月にかけてで、5月からは枯れ始めました。
枯れた株の根元に近いところからも新葉が出て、とても小さな花(直径1ミリほど)が咲いているのが見られました。
5月中旬
公園内のイヌノフグリは全般に小振りでした。
今期の各地の観察では、植え込み・裸の地面に生えているイヌノフグリは小さめ、
石垣やブロックのすきまから生えているイヌノフグリは大きめという傾向がみられました。
大濠公園内ではないですが、すぐそばの建物の脇にイヌノフグリが生えていて、それは下のようにけっこう茎が長く成長していました。
4月上旬 茎の最大長10数cmほど
公園ではイヌノフグリを、公園に残されている日本の野草のひとつと位置づけて、これから見守り育てていきたいとのことです。
→
大濠公園のホームページ(ブログに記事がのっています)
市民参加に熱心に取り組んでいる公園なので、これからイヌノフグリを見守る方が増えていったらいいなと思います。
[住宅地の公園のイヌノフグリ]
これも公園のイヌノフグリですが、大濠公園とはちがって、ふつうの住宅地の中の公園です。
住宅地とは言ってもやや山ぎわの地域で、住宅地の中に以前の山すその自然が少し残されている風情です。
その一角に、カンサイタンポポなど在来の草花とともに、イヌノフグリがほんの数株、生えていました。
4月中旬(以下2写真とも)
これが実です
6月上旬 日陰のイヌノフグリは茎が長めに成長するようです
昨年から確認できていて、今年も数は大差ありません。
ここの公園で観察したり写真をとったりしていると、近くを通りかかる子どもたちが、「何してるの?」とたずねるので、
イヌノフグリを見せてあげます。
花の小ささにおどろく子が多いです。
絶滅のおそれがあるという話もします。「ぜつめつ」の説明をすると、ほとんどの子がおどろきます。
あんまりびっくりした子には、これはまだそんなに減ってはいないから今のところはだいじょうぶとも話します。
いろんな人が見守ってくれたらいいなという話もします。
実際、だれかが見守っていくとしたら近所の人が一番でしょう。
子どもたちは(興味なさそうな子も多いですが)話をまじめに聞いてくれます。
見守り人の候補ナンバー1だと思います。
いま子どもたちが何かアクションを起こすのでなくても、
身の回りの草に関心を持って見てもらうだけでも、草にとっても子どもたち本人にとっても、
いつか何かいいことにつながるのでは?と思っています。
男の子にカメラを貸したら、近くの花をいろいろ写してくれました。
6月上旬
[道ばたのイヌノフグリ]
ほんの道ばたにイヌノフグリが生えている場所です。
ここも昨年はじめて見た場所で、今年もくり返し様子を見に行きました。
3月下旬
4月中旬
市街地でイヌノフグリが生えている場合、このようにアスファルトやブロックべいのすきまから出ていることが多いです。
すきまから生えている場合、地面と平行な面だと放射状に、地面に対して垂直な面だとほうき状(タコ足状?)に枝が広がることが多いようです。
この一帯はさいわいちょっとした空き地になっているので、道ばたとしては観察しやすいほうです。
ただ、後日、この校区の防犯マップなるものを見る機会があり、
よく見るとこのイヌノフグリが生えている近辺に不審者マークがついていました。私でしょうか?
来年は地元自治会にでも話を通す必要があるかなぁと考えています。
4月上旬
ここでも通りがかりのおばあさんに「こんなにして見ています」と話をしました。
その方も草花がお好きで、いろいろ話がはずみました。
来年またお目にかかれたらうれしいです。
[天神のイヌノフグリ]
福岡市の中心街、天神の道ばたにもイヌノフグリが生えていました。
4月下旬
見つけたときにはおどろきました。
たしかに、よくよく考えれば生えていてもおかしくない条件の場所ではありますが、
人の通行も多く、近くに他のイヌノフグリの群落もなく、
よくぞ生き延びていると思わせられます。
2月中旬 舗道上
2月中旬 植え込みの中
福岡は城下町で、古地図で見るとむかしはお濠の石積みが天神を越えて那珂川まで延びていたので
(注2)、
イヌノフグリが生育していても(むかしは)おかしくない環境であったと思われます。
それの生き残りなのか、どこかからやってきたのか、今のところわかりませんが、
これからも気をつけて見ていきたいところです。
6月上旬
[今年のイヌノフグリ概要]
今年は、福岡市、久留米市、大牟田市、飯塚市、直方市、それから佐賀県佐賀市で見つけることができました。
福岡市では地名(何々○丁目)で数えると19か所見つけました。
私が時間を見て(あるいはたまたま)歩いていて見つけた場所だけですので、
実際はもっと多くの場所に生えているものと思われます。
福岡市 4月下旬
大牟田市 4月中旬
直方市 3月上旬
佐賀市 3月下旬
今年見ることができた場所全体を通してみると、
最も数が多かった場所では、300株以上の場所が1か所ありました(しかし500には届かないと思います)。
50〜100株の場所が数か所(危なかったり私有地内だったりで数えられない場所もありました)、
でも数株〜10数株の場所がほとんどでした。
昨年6株あった場所が今年は1つも見られなかったり、工事が入って数が激減した場所があったりしました。
いっぽうで、昨年から数が比較的多かった場所では今回さらに数が増えていることが多く、
かならずしも減る一方ではない(数が増えた理由は定かでありませんが)ということもうかがわれました。
数の増減については今このページの「ふろく」を書いていますので、そちらで取り上げます。ご関心に合わせてごらんいただけたらと思います。
また、都心部で生育しているイヌノフグリは外来種か再移入種ではないかという見解があるようなのですが、
今年気をつけて見てきた限りでは、私が福岡で見ているものについてはもともとその近辺に生えていたものだろうと思っています。
これについても、こまかい議論を「ふろく」に書く予定です。
(「ふろく」は10月ごろ、こっそりと掲載予定です。このページやブログ、RSSでお知らせします)
[ちょっと告知〜ご関心をお持ちの方へ]
上にも書きましたが、イヌノフグリを続けて見ていて、
イヌノフグリがこれからもそのまちで生きていくには、やはり地元・近所の方々が気にとめて見ておられることが重要だと思いました。
なにぶん、道ばたや公園など、けっこう人の手(工事や草刈り)が入る場所に生えていることが多いので、
次に行ったときには工事でなくなっていた、というケースが今後もありそうです。
私も自分で見て回るには限界を感じます。地の者でないので、工事だの草刈りだのに直面しても、何もできないこともあります。
この記事をごらんになられた上の地域の方で、もしこういった身の回りの植物に関心を持ってなにか取り組みたいと思われる方
(自治会や小中学校など、ある程度公的で地域の方々からなる団体さんが良いです。今回は。)がいらっしゃったら、
ご連絡いただけたら、少しお話をさせていただいた上で、ご相談次第で情報提供などいたしたいと考えています。
具体的な場所をお教えするのでなしに、探し方(生育状況の特徴など)についてお話しすることもできます。
(ご自身でご近所を探して見つけられるのが一番楽しいと思いますので)
私自身しろうとで、自分が勉強しながら観察している立場ですので、たいしたことはできませんが、
このサイトを作っている方針が「情報をいただくだけでなく、こちらからも発信する」ことにありますので、
経験談などでも何かお役に立てる面があればお伝えして、いろいろな方といっしょにまちの植物を見ていくことができたらと思っています。
イヌノフグリは絶滅危惧種になってはいますが、まだ絶滅寸前ではなく、それなりに各地に数があります。
正直なところ、けっこう見つかります。(このへんだけのことかもしれませんが)
むしろ身近にイヌノフグリが見られる今のうちに、各地で、他の植物たちとともに大切に見ていってもらったらいいのではと思います。
各地でイヌノフグリをはじめいろいろなまちの植物が関心を持って見られていたら、まちから(地上から)姿を消していった過去の多くの植物たちと同じ道を、イヌノフグリや今まちに生きている植物たちがたどらずに済むかもしれないと考えています。
少々、「らしくない」ことを書きましたが、
何年かイヌノフグリを続けて見てきて、いくらか「危機感」のようなものもたしかに感じます。
今から何かできることがあったらしたいと思っています。
折々、行政の方々や研究者の方々と話す機会を持ちながら、
基本的には地味に口コミで(状況を考えながら)、居合わせた方々に「イヌノフグリが生えてますよ」と伝えていきたいと思っています。
注:
1. 環境省のレッドデータブックでは、絶滅の危険が増大している種「絶滅危惧II類(VU)」に指定されています。福岡県のレッドデータブックでは絶滅のおそれが1ランク高い「絶滅危惧IB類(EN)」です。もどる
2. 九州大学デジタル・アーカイブ(http://record.museum.kyushu-u.ac.jp/)のGallery>「福岡・博多の絵図」で、江戸時代の福岡・博多の地図が見られます。もどる
参考文献:
環境庁自然保護局野生生物課(編) 改訂・日本の絶滅のおそれのある野生生物−レッドデータブック− 8 植物1(維管束植物) 2000年
福岡県環境部自然環境課(制作) 福岡県の希少野生生物−福岡県レッドデータブック2001− 2001年
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